Concept
私は「作為と無作為の共存」をテーマに、大人が持つ打算(作為)と、子供が持つ純粋な感情(無作為)という相反する要素を、絵画の中に共存させ表現してきました。これまで花、柳、人魚姫、シャンデリアなどをモチーフに描いてきましたが、今あらためて考えると、それらに「儚さに宿る美」を見出してきたのだと思います。
桜の花は一度散ることで、また翌年新しい花が咲きます。花は散ることにより自らを殺すことで、桜の命は未来へと続いていきます。このある意味残酷な循環のなかに、私はえもいわれぬ生命の美しさを感じています。
日本とカリフォルニアを行き来して制作を続けるなかで、私は自らの感性が日本文化の美意識に根ざしていることに気付かされました。日本の感性を象徴する「もののあはれ」という言葉は、四季の移ろいなど外の世界に触れることで生じる、しみじみとした感動や情緒を意味します。永遠に不変のものではなく、死を前提とした移り変わるものにこそ美が宿るという考え方は、日本文化の根底に流れているのではないでしょうか。
今回の展覧会は「Apoptosis(アポトーシス)」と題しました。アポトーシスとは、生物が命を繋いでいくために、細胞にあらかじめプログラムされている「細胞死」のことです。花や葉、鳥などを、次の生命を育むために変化するものとして捉え直し、そこに儚くも輝く美を捉えようと試みました。
中北 紘子