Concept
カリフォルニアを訪れるようになり、来年で15年になります。
今回展示するのは、日本にいる普段の私ではなく、カリフォルニアにいるときの「もう一人の私」が描いた作品たちです。
私が生まれ育った家庭環境は、それなりに裕福で恵まれていましたが、一方で恋愛や結婚、働き方などにおいて旧態依然としたスタイルを偏重していました。
そこには複雑な人間関係と大人の社会があり、それによって抑え込まれた私自身の感情の窮屈さがありました。
だからこそ私は、規則と自由、理性と感情、作為と無作為の関係をテーマに絵を描いています。
感情が極限まで高まったときに人が発する涙のように、身体の奥深くから発される感情を、絵の具の「垂れ」によって表現して参りました。
しかし毎年カリフォルニアに滞在するようになったことが、自分の絵画の描き方を変える大きな経験となりました。
日本では、しがらみの中で生きていた私が、カリフォルニアにいるときには、開放的な気候や風土、人のふるまいに影響されて、新たな自分になることができます。
「窮屈さ」を忘れ、自らの感情の赴くままに、素直に絵を描くことができるのです。
私のアトリエがあるニューポートビーチという都市は、ロサンゼルスのような賑やかな都市とは違って、フランスのニースや日本の芦屋にも似ている、少し落ち着いたエリアです。
カリフォルニアの青空は抜けるように高く、空が果てしなく広く感じます。
野烏も多く、色とりどりの花々を日々目にします。
朝雨が降ったとしても、昼にはばっと晴れて青空が現われる。
そんなカリフォルニアでは当たり前のことの一つひとつが、私の気持ちを前向きにさせます。
カリフォルニアには、自然体で飾らない人が多く、何が起こっても受け入れるかのようなカラッとした爽やかさを感じます。
日本の私とカリフォルニアの私。
どちらが良いのかは分かりませんが、人間として、無理せず自然でいられるのはカリフォルニアだと感じます。
だからカリフォルニアは私にとって、大切な場所であり続けているのです。